普段通りの朝だと思った。
枕元で鳴り響くアラームを止めて起き上がり、洗面所で顔を洗う。着替えながら、昨晩机の上に置いた郵便受けの中身を見る。
朝食替わりのインスタントコーヒーを入れてから椅子に腰掛けると、チラシたちを順番にめくりはじめる。
ダイレクトメールに請求書、近くのスーパーマーケットのバーゲンのチラシ。大したものはないなと思いながら分類していると、一枚のポストカードが目に入った。外国の風景と思われるそれを裏返すと、お世辞にも綺麗とは言えない字がでかでかと書いてある。
とても見覚えのある字で、たったの四行。
――イングランドでカントクやってます。タツミ
「っ達海!?」
脳裏に浮かんだのは生意気な後輩の姿。何年か前に海を渡り、ある日と境に音信不通となってしまった後輩であった。タツミ、という名前の知り合いは他にはいない。
他のチラシがばらばらと床に落ちたが、そんなこと気にしている余裕は無かった。ポストカードの消印の日付は、もう随分と前のもので、一体どこの土地の消印なのか読み取るのが難しい。その上、達海自身の住所も書いていない。分かるのは、四つ下の後輩がイングランドに居るであろうことだけ。
こうしてはいられない。
掛けてあったスーツを些か乱暴に引っぺがして、大急ぎで羽織りながら家から飛び出した。
にやける口元をポストカードで隠しながら、仕事場へと走った。
海を越えて、山を越えて
(今すぐ君に会いに行けたなら)
あいつの頭の中にまだ俺がいたのが嬉しくて仕方がなかった
(2011/02/07)初出