「解任まで、か」
後藤の呟きが、廊下に零れた。眉間にしわを寄せて考え込む後藤を、達海は表情一つ変えずに見上げている。
「今の俺には何とも言えないが。まぁ、少なくとも、お前がクビになる時は俺も一緒に、ここクビになるだろうな」
達海が、僅かに眉を上げた。先程までの意地の悪そうな表情は影を潜め、一際鋭くなった達海の眼光に、後藤は苦笑を浮かべる。しかし、その表情もすぐに隠れ、いつもの勝負師の顔を見せる。
「何。連帯責任ってやつ?」
「そんなとこだ。俺が上に無理言って、無理矢理お前を監督にしたんだ。それくらいのリスクは負うさ」
達海の肩を軽く叩いて言う。後藤は、何でもないことのように言うが、ただ一人の監督のために自分のクビを賭けるなんて、そう簡単に出来ることじゃない。達海もそれはよく理解していた。それだけ後藤が、達海を盲目的に信頼しているということを。
「じゃあなに。俺がクビになったら、俺たちこの歳で男二人して路頭に迷う羽目になるの?」
あーやだやだ、とわざとらしく肩を竦める達海を見て、後藤は頬を掻く。
「お前に、他の行く宛てがあるなら話は別だが、無いならそうなるな」
そうは言ったものの、達海に行く宛てが無いことなど目に見えていた。今更イングランドに戻るわけもなく、シーズンが始まってすぐに監督を雇ってくれるようなチームなど無いも同然。そこいらの学校の部活動に外部コーチとして雇ってもらう手もあるが、それだけでは食べていけないのだ。
「そうなるなって、んな簡単に……。どーすんだよ。俺、もしクビになったら後藤のとこでお世話になろうと思ってたのに」
「残念だったな、宛てが外れて。――そうだな」
もしも、二人で路頭に迷う羽目になったとしたら。自分たち二人だけではどうにもならなくなったら。自分は一体どうするのだろうか。もし、そうなったら。
「――お前と心中ってのも、悪くないかもな」
愛だとか恋だとか、そういう
(そういうものとはまた、違うのだけれど)
最期に見るのがお前の顔っていうのも、きっと悪いものじゃない
×じゃ無いです。あくまでこいつらは+です。
(2011/02/22)初出
(2012/05/10)再UP