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此処は一体何処なのだろうか。
煌びやかで豪華な装飾と、何処までも続いているように思える広くて長い廊下。数ヶ月過ごしたブリタニア本国の宮殿及ばないものの、それなりに大きな城だろうと思う。天井には少し豪華な照明が垂れ下がっており、程好く明るかった。まるで何処かの城のようだが、はっきりとは把握出来ていない。幼い頃に暮らしていたアリエスの離宮のようにも思えるが、あそこは此処まで豪華ではなかった筈だ。
高めの天井に自分の足音と息遣いだけが響いている。不意に足を止め、辺りを見回した。人の声や物音は一切しないが、置物や装飾に埃が積もっていない所と花瓶の中の花がまだ瑞々しい辺りからして、人が居ない訳ではないだろうと思う。暫く其の侭、立ち尽くしていると自分の後ろに他人の気配を感じた。
ハッと息を呑んで振り返ると、一番に目に飛び込んで来たのは華やかな桃色だった。

「…ルルーシュ……。」

聞き覚えのある柔らかな声に見覚えのある可愛らしい桃色のドレス。ルルーシュが振り返った先に居たのはルルーシュの義妹、ユーフェミアだった。
「……ユ、フィ…?」
「ルルーシュ、」
綺麗な薄紫色の瞳から、ぽろぽろと大粒の涙を次から次へと零しながら、勢いよくルルーシュに抱きついたユーフェミア。少しバランスを崩したルルーシュだが、すんでの所で踏みとどまり自分の肩に顔を埋めているユーフェミアへと視線を落とした。
「え・・・お、おい」
驚いて慌てふためいているルルーシュの視界に、新たに3つの影が加わった。ルルーシュがそれに気が付くより早く、左腕を誰かに掴まれる。続いてルルーシュに降りかかってきたのは、随分と聞いていなかったがとても聞き慣れた少年の声だった。

「ずるいですよユーフェミアさん。兄さんに抱きついていいのは僕だけです。」
「まぁ、いいじゃないか。ユフィも嬉しくて仕方が無いんだよ。許してあげてくれ。」
「ちょっと待ってよロロ、ルルと私は学校公認の…こ、恋人同士、なんだから、私もいいでしょ!」
「………クロヴィスさんがそう言うなら…。……ここは、アッシュフォード学園じゃないので関係ありませんよシャーリーさん。兄さんは僕のなんです!」

ロロに続いて、シャーリーとクロヴィスの声も聞こえてきた。
勢いよく顔を上げたルルーシュの瞳に映ったのは、間違うことの無い兄と弟、そして少女の姿であった。
ルルーシュの腕を掴んだまま、曖昧な表情で笑っているロロ。見るからに動きにくそうな皇族服を着て、苦笑交じりの笑みを浮かべているクロヴィス。ユフィと同じく瞳に一杯の涙を浮かべているが、努めて明るく振舞おうとしているシャーリー。
自分の前に立っている3人を順に見つめ、唖然としているルルーシュ。そんなルルーシュを見て、一番に口を開いたのはシャーリーだった。

「ルル。何でこんなに、早く来ちゃったの……?」

どんどん潤んでいく瞳。必死に泣くまいとしているシャーリーだが、その意思に逆らい涙は零れてしまう。
さっきまでルルーシュの体にしがみ付いていたユフィもルルーシュから離れ、自身の小さな手のひらで零れ落ちてくる涙を拭った。

「……ごめん、シャーリー。ロロも、折角お前が守ってくれた命だったのにな……。ユフィも、クロヴィス兄さんも。謝って済む事じゃないって分かってる。それでも、本当に―――」

言葉を詰まらせてしまったルルーシュ。俯いて、拳を握り締めた。
クロヴィスを殺し、シャーリーを振り回して、ユフィが差し伸べてくれた手を取ることが出来なかった。挙句の果てに、無くしてからしか気がつけなかったロロの愛情。
辺りに広がる沈黙。俯いたまま顔を上げようとしないルルーシュを見て、4人は顔を合わせて小さく微笑んだ。

「もう良いのよ。ルルーシュ。ねぇ?皆さん。」

ユーフェミアの言葉に、3人が同時にゆっくりと首肯する。
ハッと顔を上げたルルーシュ。ルルーシュがしっかりと握り締めたままの拳を、ロロの掌が優しく包み込んだ。クロヴィスもルルーシュの頭を撫でる。2人の手にはもう血が通ってはいない。当然、温もりなど感じるはずも無いのだが、ルルーシュは確かにその手のひらに温もりを感じた。勿論、物質的な暖かさではない。ルルーシュが感じたのはそんなものではなく、心の温かさだった。
受け入れてくれたユフィ。迎え入れてくれたクロヴィス。許してくれたシャーリー。守ってくれたロロ。
「皆本当に、ごめん。」
「違うでしょ、ルル。こういう時は、"ごめん"じゃなくて―――」
目の淵を紅く染めたシャーリーが微笑みながら言った。
「あぁ、そうだったな。……"ありがとうっ"」

ルルーシュのその言葉を聞いた4人は満足げに微笑む。その表情を見たルルーシュも、つられて笑う。
なんだ、優しい世界は此処にもあるじゃないか。

「ルルーシュ。あの時のチェスの続きをしないか?確かあっちの部屋にチェスセットがあった筈だ」
「ちょっと待って下さい。兄さんは今から僕と一緒にお菓子を作るんです!」
「駄目!ルルは私と一緒に―――」
「お待ちなさい!ルルーシュは私とお茶をするのです!」
「こらこらユフィ、此処は年長者に譲るべきでは?」

いきなり始まったルルーシュ争奪戦。突然の事態に目を丸くしていたルルーシュだが、皆の真剣すぎる様子を見ていると、思わず吹き出してしまった。
「ちょっと!ルル!?笑わないでよ、もぅ!」
「悪い悪い。…というより。この場合、皆でお茶にすればいいじゃないのか。」
ルルーシュが零した言葉に、ユフィが賛同した。
「そうですわ!そうしましょう、ルルーシュ!」
「うん。…兄さんがそれで良いなら。」
「ルルーシュの言う通りだね」
「では、お庭へ行きましょう!すぐ近くですし、私が案内いたしますわ!」

いつの間にかすっかり泣き止んだシャーリーとユフィの笑顔を見たルルーシュはユフィに有難う、といい僅かに微笑んだ。
やはりこの2人は、笑っている方がずっと素敵だ。
庭へ向けて歩き出したユフィをみて、3人と1人が付いて行く。広い廊下は5人が並ぶと流石に少し狭かったけれど、それでも5人で並んで歩いた。
庭まで後少し、といった所でルルーシュの隣の隣、詰まりは一番端を歩いていたクロヴィスが「あ!」と声を上げる。
「どうしたんですか?クロヴィス兄さん。」
ルルーシュは歩みは止めず、歩きながらクロヴィスの方見た。
急に声を上げるものだから何事かと思ったが、クロヴィスはとても嬉しそうな表情を浮かべていた。
「とても大切なことを忘れていたよ。」
「あら、本当。私としたことが、すっかり忘れていましたわ。」
「僕も、忘れてました……。」
「大丈夫!今からでも間に合うよ!」

ルルーシュは4人の会話の意味が全く分からず、首を傾げている。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか庭へ出る扉の前に到着していた。他の扉とは違い少しだけ豪華な扉。その扉に手を掛けて少し重い扉を押した。外に広がっていた風景は、アリエスの離宮の庭園そのものだった。鮮やかな花々が咲き誇っている庭園。最愛の妹、ナナリーが愛した風景であり、自分も忘れることが出来なかった風景。目の前に広がっている世界に、目を見開いているルルーシュ。
ルルーシュが庭に出た事を確認したシャーリーは、大きな声を上げた。

「いくよー!せーのっ!」

シャーリーの大きな声に驚き、ルルーシュが4人を見る。
その声を合図に、4人が一斉に口を開いた。

「ルルーシュ!」
「兄さん!」
「ルルっ」
「ルルーシュ。」

ユフィが、ロロが、シャーリーが、クロヴィスが。
ルルーシュに一番伝えたかった言葉。
最も簡単な、最上級の感情表現。
ルルーシュが、最後まで求め続けたもの。それは―――――




「「「「愛してるっっっ!!!!」」」」





大好きって気持ち、

貴方にちゃんと伝わってる?
(私達は貴方が思ってるよりずーっと、貴方のことを愛しているの)

おつかれさま、もういいんだよ。
(2008/10/12)