軽トラック揺られ続けて、そろそろ一時間程経っただろうか。今この軽トラックが走っている道は、未だ整えられていない道路なのか時々大きく揺れるため少しばかり体が悲鳴をあげている。それでも、後ろの荷台に乗せられているリヴァルに比べたら全然マシだろう。何て事を考えながら次から次へと自分の横を流れていく外の風景をぼんやりと眺めていると、運転席の方から声が聞こえてきた。
「あと10分程で到着だ。後ろの奴にもそう伝えてくれ」
その言葉に、わかりましたと返事をして窓を開けた。その瞬間に、車の中に風がふわりと入り込んで来てとても心地がいい。緑の匂いがする風を感じながら、窓から大きく身を乗り出して後ろの荷台にいるリヴァルの方へ向かって声をあげた。
「リヴァルーっ!あと10分ぐらいだってさーっ!」
「会長ー!?何ですかーっ?」
「あと10分だってー!」
「わかりましたー!」
リヴァルからの返事を聞くと、大幅に乗り出していた体を引っ込めてゆっくり窓を閉めた。風が入って来なくなってしまうのは少しばかり残念だが、ずっと開けている訳にはいかないので仕方が無いだろう。
(あと10分、か)
少しずつ、この車は目的地へと近付いていく。そう考えると、トクンと胸が高鳴り、自分の膝の上に乗っている大きめのビニール袋をぎゅっと抱きしめた。カサリと小さく音を立てたその袋の中身は大量の花火だった。打ち上げ花火から、手持ち花火。線香花火やへび花火まで、ありとあらゆる花火がその袋の中に入っていた。少々季節外れだったので、これだけの量の花火を集めるのはかなり苦労したのだか、これくらい、どうって事は無い。
はやる気持ちを抑える為、小さく溜息をついてミレイはもう一度、窓の外へと視線を移した。
言葉では足りないこの気持ちを、
(貴方に、逢って、伝えたい)
読み終えた分厚い本を閉じ、ルルーシュはゆっくりと顔を上げた。
狭くもなく広すぎもしないこの屋敷は貴族制度廃止の際に出てきた、不要となってしまったとある貴族の別邸の1つであった。壁に掛かっている時計を見上げると、時計の針は4時過ぎを差していた。アーニャはまだ、裏の庭で遊んでいるだろうし、ジェレミアは5時過ぎまで帰って来ないと言っていた。C.C.が帰ってくるのは明後日で、咲世子は屋敷内で作業をしているだろう。
もう一度時間を確認してみたものの、中途半端な時間であることに変わりは無い。夕飯の用意をするには早すぎるし、今から別の本を読むとなると少し遅い。次は何をしようか、と考えてはみるが何も浮かばなかった。小さく溜息をついて、もう冷めてしまっている残り僅かな紅茶を口の中に一気に流し込み、もう一杯紅茶を入れるためにゆっくりとソファから立ち上がった。
ティーポットに入っている紅茶をティーカップへと注ぐと、湯気までは立たなかったもののそれなりに温かそうなそれがほんのりと甘い香りを放っていた。
もう一度ソファに腰を掛け、紅茶を一口、口に含む。ほぅっと一息つくとゆっくりと目を閉じた。
―――――コンコンッ
屋敷の扉を叩いている音が聞こえた。ジェレミアやアーニャが戻ってきたのならばノックなどせずに入って来るであろうし、咲世子はこの屋敷の中に居た筈だ。
ルルーシュは他人に顔を見られる訳には行かないので、来客などの際は咲世子かジェレミア、またはアーニャに出て貰わなくてはならない。
「咲世子、来客のようだが?」
部屋のドアを開けて廊下の方へと向かって声をあげると、洗面所の方から咲世子の返事が聞こえてきた。
「申し訳ありません。今、手が離せないので代わりに出て頂いても宜しいでしょうか」
「しかし……」
「大丈夫です。客人の予想はついておりますので、ルルーシュ様がお出になって下さい」
ルルーシュが出ても良い客人と言えば、C.C.ぐらいのものだ。スザクですらルルーシュが生きて此処で生活していることは知らないし、当分は教えるつもりも無い。ロイドやセシルには今度教えようと思っては居るものの、まだ実行には移していない筈だ。となると、やはり客人はC.C.なのだろう。予定より早い到着になるのならば前もって連絡を入れてくれれば良いものを。と思いながら玄関へと向かう。
―――――コンコンッ
もう一度、今度は控えめにドアが叩かれた。いつものC.C.ならばノック何かせずにずかずかと上がり込んで来るくせに、一体どういう風の吹き回しだ。
「はいはい、今出る」
そう言って、玄関のドアノブへと手を伸ばす。その扉をゆっくりと押し開けると目の前には予想もしていなかった光景があった。
綺麗な長めの髪を持っている、自分と同じ位の背丈の女性と、外向きに跳ねた髪が特徴的な少し背の低い男。目の前の2人は驚きに目を見開いているようだがルルーシュも驚きを隠せなかった。
如何して彼らが此処に……?
「……会長…、と、リヴァル……?」
ルルーシュの声に反応するかのようにミレイの腕から大きな袋がバサリと大きな音を立てて落ちたが、ミレイはそんな事は気にも止めずふらり、と一歩前に歩み出た。
細く綺麗な手はカタカタと小刻みに震えていて、その瞳には涙が溜まっていた。ミレイはルルーシュの方へとゆっくり手を伸ばし、ルルーシュの両頬を優しく包み込んだ。
「ルルーシュ……?っルルーシュ。本当に、生きて…っ」
良かった、と小さな声で呟いたミレイ。瞳に涙さえ浮かんではいるものの、その表情は歓びに染まっていた。ジェレミアに促され4人は屋敷の中へと入ったが、ミレイはルルーシュの腕を離そうとしなかった。そんなミレイを見てルルーシュが困ったような表情を見せリヴァルの方へと移してみると、リヴァルが拳を握り締めて俯いていた。
「リヴァル……」
「……こんな事して、俺達が喜ぶとでも思ったのかよっ!お前が死んだの見て、俺が、俺達がどれだけっ……!」
言葉を詰まらせてしまったリヴァル。そんなリヴァルの目にも薄らと涙が浮かんでいる。
「すまない……」
ルルーシュは唯、そう言うことしか出来なかった。リヴァルの目は真剣そのもので、その言葉が嘘ではないと言う事が分かったからだ。リヴァルは真っ直ぐにルルーシュを見詰めたまま、口を開いた。
「だから、……俺達も、此処に住む」
「……は?」
なんでそうなる。
ルルーシュの頭の中では大量の疑問符が飛び交っていたが、その疑問を口に出すことは憚れた。
自ら望んでここで暮らすなんて、普通では考えられなかった。此処は人里から隔離されていて、自然以外は何も無い、といっても過言ではないような場所だ。ミレイにもリヴァルにも家族が居るし、友人も居る。ミレイはもう既に仕事に就いていたから仕事の仲間も居るだろう。それらを全て捨ててまでこんな所い住むだなんて。
そんなの駄目、だ。
彼らには、幸せになって欲しいのだ。いつも笑顔でいて欲しいのだ。家族に囲まれて、友人達とふざけ合って、好きなことをする。そんな人生を送って欲しい、と純粋にそう思うのだ。
「駄目だ、お前達は戻れ。今ならまだ―――――」
「俺は絶対に戻らないからな」
「私だって嫌よ、もう決めたんだもの。それに、もう荷物も持ってきちゃったし」
ね、リヴァル。とミレイが笑いながらリヴァルに同意を求めると、はいと元気の良い答えが返ってきた。2人ともニコニコと笑ってはいるもののその目には確かな決意が見えた。
完璧に困惑しきっているルルーシュに声を掛けたのは、先程まで作業をしていた筈の咲世子であった。
「宜しいではありませんか、ルルーシュ様。ミレイ様もリヴァル様も私共と同じなのですよ」
「咲世子……、お前まで…」
「ルルーシュ様、僭越ながら私も賛成で御座います。咲世子も私も、そしてアーニャも。皆、自分の意志で此処におります。それは彼らとてきっと同じ」
「……私も、賛成」
いつの間に屋敷に戻って来ていたのか、アーニャまで向こう側へ加わってしまった。これでは勝ち目が無いではないか、と小さく零し深い深い溜息をつくと、ルルーシュは渋々口を開いた。
「……仕方ないな…」
そのルルーシュの言葉に、其処に居た全員が一斉に笑みを浮かべた。
「よーし!じゃあルルちゃん。空いてる部屋に案内しなさい!」
ミレイが大きな声をあげてルルーシュの背中を押した。さっきまでの表情がまるで嘘のような明るい表情を浮かべている。
「ちょっと待ってくださいよ、会長」
ルルーシュが困ったように言うが、その表情はとても柔らかい。
「もう会長じゃないでしょ!ミレイ、で良いわ。それと敬語もなし!」
「会長!俺もミレイって呼んでも良いですかー?」
「リヴァルはだーめ!」
「えぇーー!何でーー!」
「……リヴァル、邪魔」
一気に賑やかになった屋敷を見て、咲世子とジェレミアは顔を見合わせてクスリと笑った。
やはり、笑顔が一番ですね、と。
心のどこかで望んでいた、優しい温もりが
ジェレミアの口調が全然掴めない。
(2009.03.27)
(title:群青三メートル手前)