ふわふわとしたまどろみから嫌々目を覚ますと、照明を付けていない筈の部屋がカーテン越しの柔らかな太陽の光で包まれていた。寝起きの自分には、そんな些細な光でさえも眩しく、右手で軽く目をこすった。
ゆっくりとベッドから立ち上がり、窓の傍へ行きカーテンを開いて朝の太陽の光を招き入れた。同時に窓も開けると、早朝独特のひんやりとした空気が体を包む。いくら夏が近いとはいえ、季節はまだ春のようなものだ。早朝の肌寒さは少々辛いものがある。
早く着替えてしまおうと思い、クローゼットへと向かった。
適当な服を選んで着替えを終えた時、今日の朝食当番が自分であったことを思い出し、一階のキッチンへと足を進めた。
冷蔵庫から五つの卵を取り出して、早速朝食の準備に差し掛かった。旅に出ているC.C.がこの家に戻ってくるのはまだまだ先なので、彼女の分の朝食は必要ない。ジェレミアも食事を必要としない体になってしまっているので、朝食はおろか、食事は全て必要ない。危うく七人分の朝食を作ってしまいそうになった自分を笑い、他の材料の準備に取り掛かった。
全ての準備を終えて、さて調理に取り掛かろうか、と思ったとき、部屋の入り口付近から、優しい声が聞こえた。
「おはようございます、ルルーシュ様」
「おはよう、咲世子」
そう返して、腕に巻いてあるシンプルな腕時計を見ると、その針は六時半過ぎを差していた。
「咲世子、ミレイとアーニャを呼んで来てもらえるか? 俺はリヴァルを叩き起こして来るから」
少し巫山戯たように言うと、咲世子はクスリと笑ってから、了解しましたと告げて部屋から出て行った。それに続くようにして自分も部屋から出て、まだ夢の中に居るであろう自分の悪友の元へと向かった。
部屋に着くと、ルルーシュはノックもせずに扉を開けて部屋の中へ入り込む。それから、ベッドで寝こけている悪友の布団を、問答無用で思い切り剥ぎ取った。
「起きろリヴァル。もう六時半だ」
「んー……」
「早く起きろ、朝食抜くぞ」
「嘘!嘘です!起きるから朝食だけは食べさせてっ!」
ルルーシュの言葉は効果覿面だったのか、リヴァルは凄い勢いで飛び起きた。ぼさぼさの頭を掻いて、あー寒い、と声を上げながらベッドから降りた。
そんな様子を見て、ルルーシュは小さく微笑ってから、急いで降りてくる旨を告げて部屋から出た。急いで朝食を作らなくては、とキッチンへ急いだ。
キッチンへ着くと、ミレイとアーニャが既に各々の席に着いていた。楽しそうに笑い合っている二人、といってもアーニャは相変わらず無表情だが、そんな二人の後ろで咲世子とジェレミアが微笑んでいる。
咲世子は、ルルーシュに気付くと静かに歩み寄り、口を開いた。
「何か、お手伝いできる事は御座いますでしょうか?」
咲世子の言葉を聞いて、パンを五枚焼くように頼むと、自分も朝食の調理に取り掛かった。
完成した朝食を机に並べ終えて、ルルーシュと咲世子が席に腰掛けると、先程自分が起こして来たリヴァルがまだ下りてきていない事に気が付いた。
「リヴァルは、まだか?」
「私は見てないわよ?まだ寝てるんじゃない?」
「折角、俺が起こしてきたのに……あいつ、朝食抜きだ」
ルルーシュが溜息交じりに言うと、隣に座っていたアーニャが小さな声で呟いた。
「リヴァルの分、食べて良い……?」
その言葉に、ルルーシュは思わず吹き出してしまう。そう、アーニャは見た目に合わず、よく食べるのだ。クスクスと笑いながら「食べるか?」と問うと、アーニャは珍しくにっこりと笑い「うん。ルル様のご飯美味しいから」と呟いた。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
突然割り込んできた声。入り口の方を見ると、息を切らせたリヴァルが立っていた。
それを見たルルーシュは、貼り付けたかのような、爽やかな笑みで言った。
「おはようリヴァル。お前の朝食は、たった今アーニャのものになったから」
ルルーシュの言葉を聞いたリヴァルは、絶望を見たかのような表情をして、ああぁぁ、と叫びながら重力逆らっている寝癖の付いた髪を揺らしてアーニャの元へと駆け寄った。アーニャのすぐ横に座り込んだリヴァルは、少女の小さな手を握りしめて必死の声色で言った。
「お願いしますアーニャ様!俺に朝食を分けて!」
「駄目。……これはもう私の」
必死の懇願をあっさり一刀両断されたリヴァルだが、それでも諦めずに頼み続ける。
「そんなに沢山あるんだし、一つでいいからさぁ」
「嫌。ルル様のご飯美味しいもん」
「俺だって好きなんだよ!ルルーシュの飯!」
美味しい朝食を逃してなるものか、と必死なやり取りを見て、ルルーシュは笑みを零す。リヴァルは、どうにかして朝食を得ようと、様々な条件を持ち出しているが、一方のアーニャは頑として譲らない。流石にこのままではリヴァルが可哀想だ、と見かねたルルーシュが助け舟を出した。
「アーニャ、今日のおやつにお前の好きなオレンジケーキを作ってやるから、それはリヴァルにあげてくれないか?」
「……ルル様がそう言うなら」
ルルーシュの言葉に、アーニャは自分の前に置いてある皿を、リヴァルの席にすすす、と差し出した。
「ありがとうございます、アーニャ様ぁぁぁ!!」
リヴァルが嬉しそうに自分の席につくと、先程までのやり取りを楽しそうに見ていたミレイが言った。
「リヴァル!遅いわよ!折角のご飯が冷めちゃうでしょ!」
「すいません、会長……」
「さぁ、食べようか」
ルルーシュがそう言うと、皆が手を合わせる。
「頂きます!」
いつもの明るい声が、部屋中に響き渡った。
変わったものと、変わらないもの
(何よりも大切なものを、見つけた気がする)
ジェレミアって食べるのでしょうか……朝ご飯。
(2009.09.28)