深夜の見回りも漸く終わりに差し掛かった時、とても微かではあったが、土方は確かに殺気を感じた。
自分に向けられたものではないなと思ったが、ちりちりと背中を焼かれるような感覚に、いつでも抜刀出来るように鯉口を緩め神経を張り詰める。暫くの間、柄に手を添えたまま静止していたがあちらにも一向に動きが無い。こちらから動こうかと思っていた矢先、微かに聞こえた唸り声と共に、錆びた鉄の匂いが鼻腔をついた。
(誰か、斬られた、か?)
「おい。そこで何をしている」
振り向きながら声を掛けると、後ろの角から一人の男が出てきた。
「……あれ、? お前、土方か……」
なんだよ、びっくりさせんな。
聞き覚えのある声に、土方は大きく目を見開いた。顔を出したのは、万事屋の主である坂田銀時だった。
しかし、銀時の様子は明らかにいつもの万事屋とは違っていたのだ。息が荒く、あらゆる所に返り血を浴びている姿の万事屋。その姿は、土方が言葉を失うには充分すぎる衝撃だった。
銀時は壁に凭れ掛かりながら、肩を揺らしながら呼吸をして、右の手に握り締めていた銀色の真剣を、ゆっくりと鞘に仕舞った。
「おい、お前。……それ」
情けなく震える咽喉から絞り出した声では、上手く言葉を紡ぐことは出来なかった。辛うじて搾り出した声は、どうにか目の前の男まで届いたようだった。
土方が言葉と同時に指差したのは、銀時が腰に帯びている一本の真剣。
銀時は気まずそうに笑った。
「ああ、ちょっと。ね」
銀時の着流しは、鋭い刃物のようなもの(恐らく刀だろう)で切り裂かれていて、彼自身の腰にも真剣がある。
廃刀令が発布されているこのご時世では、普通の状況ではないのは確かだった。
「何で刀なんぞ持ってやがる」
「あー、悪いんだけどさ。見逃してくれたりとか、しねえ?」
そう言った銀時の表情は、いつものような人を見透かしたような表情ではなく、笑い損ねたとでもいうかのような酷く苦しげな表情であった。思わず返答に詰まってしまったのは、恐らく不正であろう刀剣の所持を許す訳にはいかないという立場の所為なのか、滅多に見ない表情から来る違和感の所為なのか、はたまた別の理由なのか分からなかった。それでも、即座に正しいであろう返答を出来なかったという事実に、酷く苛立ちを覚えた。
「怪我は、」
がしがしと乱暴に頭を掻いて、漸く答えた言葉はとても武装警察の副長として正しいと言える言葉ではなかったが、この時の土方には不思議とこの言葉以上に正しいと思える言葉は無かったのだ。
土方の言葉に、今度が銀時が目を見開いた。
「え?」
「だから、怪我はねえかって聞いてんだ」
「……一応、大丈夫だと思う」
「なら良い。お前んとこの餓鬼どもが勘付く前にさっさと帰れ。どうせ勝手に出てきてんだろ」
「すまねえな」
「今回だけだ。今度見たら、しょっ引くからな」
(俺も、甘くなったもんだな)
銀時に背を向けて、銜えていた煙草の煙を肺いっぱいに吸い込んでゆっくりと吐き出した。銀時は何故か万事屋とは反対の方向へとゆっくりと離れてゆく。その気配を背中に感じながら、土方も屯所へ戻る道を歩み始めた。






自分の知らない繋がり
(アイツにはあるんだ、と思った)







銀時が向かったのは桂の隠れ家です。
実は怪我してて、そのまま万事屋には戻れない、と思ったのだと思います。

(2010.10.24)