ふと空を見上げて、銀時は小さく溜息を吐いた。
(やっと着いた)
毎年毎年、欠かさずに訪れているこの場所は、新八や神楽にさえも教えてはいなかった。先程購入してきたばかりの饅頭とみたらし団子を左手にぶら提げて、銀時は目的地へと繋がる長い階段に足をかけた。
辺りの風景はあの頃から変わっておらず、とても懐かしく思った。しかし、それと同時に何処となく悲しみも感じてしまう。あの頃に戻ったのではないか、と錯覚してしまう程に、この場所の空気は変わっていなかった。
銀時に足に、迷いは一切無かった。ただ一ヶ所を目指して、黙々と歩きつづけている。しかし、小さな墓標が視界に入った途端、心なしかペースが早まったような気がして思わず苦笑した。
一年ぶりに見るそれは、相変わらず綺麗に整えられていた。付近に塵は無く、墓石も綺麗に磨かれているようだった。恐らく、自分よりも先に来ていた桂が、すべてやってくれたのだろう。両サイドに供えられている立派で綺麗な献花も恐らくは彼が供えたものだろう。
続けて目に入ってきたものに、銀時は笑う。
お猪口一杯分の僅かな酒が供えてあるではないか。
お酒がそこまで好きではなかった先生に、酒を供えるような人間は一人しか思い浮かばなかった。無類の酒好きである高杉だ。クスクスと笑いながら、銀時は墓前にしゃがみ込んだ。左手に下げていた饅頭とみたらし団子を墓前に供えると、手を合わせて、静かに目を閉じる。先程までの木々のざわめきが吹き飛んだ静寂の空間に居るような気分になった。
ゆっくりと目と開けて、意図せずに詰めていた息をゆっくりと吐き出す。
それから大きく息を吸い、ゆっくり立ち上がると中央にある線香に目をやった。
先客二人が供えたであろう線香は、残り僅かではあったが、まだ残っていた。先客が去ってから、然程時間が経っていないのだろう。
辺りを見渡すと、ここからそれほど離れていないところに、家屋の屋根が見える。立派な家構えとはいえないが、銀時にとっては何処よりも温かい家で会った。
「よし、行くか」
村塾へ。
線香はまだ新しかった。恐らく、二人とも村塾に居るのだろう。彼の人の面影が最も残っている場所に。この日ばかりは一時休戦、それは暗黙の了解のようでもあった。先生の前では争いたくない、という気持ちが何処かしらにあるのかもしれない。銀時は、墓前からみたらし団子だけをを取ると、小さく微笑んだ。
六本あるみたらし団子なら、三人で食べられるだろう。
懐かしい空気に包まれながら、銀時は村塾へと向かって足を進めた。
明けてくれるな、永き夜
(遠き明日に訪れるであろう、いつかまで)
先生の墓前で。
(2009.10.01)