「テツ! 部活行こうぜ!」
ホームルームが終わった途端に聞こえてきた大きな声に、黒子は顔を上げた。
「おい、テツ? 聞いてんのかよ」
生徒たちの出入りが激しく、ざわめいている教室の中でも、青峰の目は迷うことなく、しっかりと黒子に向けられている。
黒子は鞄を持ち上げながら、ゆっくりと席から立った。
「聞いてますよ。部活、行くんでしょう?」
「聞こえてたなら返事くらいしろ」
「僕が返事をするより早く、君が二言目を話し始めたんですよ」
「へいへい」
教室を出る時、いつも自分たちと一緒に部活へ行く黄瀬がいないことに気がついた。
「黄瀬君は良いんですか?」
「あいつは掃除だとよ。ほら、早く行こうぜ」
二人並んで廊下を歩きながら、他愛もない話をする。黒子とは正反対の性格である青峰との会話の中心は主にバスケットボールや授業のこと。口調は多少きついところがある青峰だが、青峰とバスケットボールの話をしているのは、とても楽しかった。
話の途中で時折、自分の左側にいる青峰の顔を見上げると、図ったかのように青峰も同じタイミングでこちらを見て、にっこりと笑う。黒子より頭一つ分高いところにある青峰の顔が、酷く眩しかった。
前から、何人かの女子生徒が歩いてきた。そこまで広いわけではない廊下なので、ぶつからないように青峰の後ろへと下がる。
何事もなくすれ違った後、先程とは反対に青峰の左側に並んだ。
「今日は紅白戦だろ? 最初にコンビネーションの調整しとこうぜ!」
そう言いながら青峰は当然のように自身の左側に目をやる。そんな青峰を見て、黒子は目を見開いた。
「テツ? なんかあったか?」
「あ、いえ」
(青峰君は、いつも僕を見失わない)
ただそれだけのことが嬉しくて、黒子は思わず頬を緩めた。
「ほら、部活行きましょう。青峰君」
たくさんたくさん、ありがとうを
(聞こえるか聞こえないかの声で)
いつもより、ずっと近い距離で歩き出す。
(2010.11.09)初出。
(2010.12.19)UP
(title:群青三メートル手前)