日はとうに落ちた時刻。日に日に、日は短くなってきていて、外気温も日を追って低くなる。
バスケットボール部の活動時間は終わったが、レギュラーの面々はまだ帰路につかず自主練習を行っていた。そのため、体育館の照明はまだ点いており、バスケットボールも片付けられてはいなかった。
まだ練習着のままの黒子は、ゴール目掛けてひたすらにシュートを放っていた。スリーポイントラインの付近から放つシュートの半数以上はリングに弾かれてしまう。それでも、黒子はボールを拾い上げ、何度も何度もボールを放つ。スリーポイントやレイアップなど、様々なシュートを練習していた。
一本のシュートがリングを通過し、パシュ、と音をたてた。
「お、ナイッシュー」
声に振り返ると、舞台に腰掛けた伊月がこちらを見ていた。その横では、ボールを抱えた日向が苦笑を浮かべている。
「まだ、残ってたんですか」
普段、自主練習を終える時刻よりも一時間以上遅い時刻。皆とうに帰り、自分一人だと思っていた。自分以外のボールの音が聞こえてこなかったのだ。それもその筈。日向も伊月も、途中からずっと黒子の練習を見ていたのだ。
「それはこっちの台詞だっつの」
日向は苦笑を浮かべて言った。伊月は勢いをつけて舞台から飛び降りると、ゆっくりと黒子に歩み寄って問う。
「まだ自主練やるつもりか?」
「あ、はい。……あの、鍵は僕が閉めるので、先輩方はもう帰っても――」
「よーしきた。じゃ、付き合って」
「へ?」
「コンビネーションの練習。ほら、部活の時はお前火神との練習ばっかだろ? たまには俺らとも練習しようぜってこと。――なぁ、キャプテン?」
「そうそう。つうことだから、ちょっと付き合ってくれ。な?」
黒子が頷くと、日向と伊月も笑みを浮かべる。三人は早速練習を開始した。
日向と伊月が交互に黒子とペアを組み、黒子がパスを出してシュートを入れる。余った一人はディフェンスである。
バスケットボールシューズ独特の甲高いスキール音が体育館に響く。
普段より長い自主練習で、体力のない黒子はもうへろへろの筈だというのに、黒子のパスは手に吸い付くかのように、正確に手の平に飛んで来る。
日向は、黒子からのパスを受け取り、シュートを決めた。
「ナイスパス。黒子」
リングをくぐったボールを黒子へと返すと、ボールを受け取った黒子が動きを止めていた。普段とは違う黒子の様子に気が付いた伊月が、俯いている黒子の顔を覗き込んだ。
「黒子、どうかしたか?」
「……僕には、足りないものばかりです。体力も脚力も、腕力も握力も」
黒子の表情に変化はない。
「キャプテンのスリーポイントも水戸部先輩のフックも火神君のダンクも、普通のシュートでさえ僕は決められない。……もっと高く跳ぶことができれば、もっと足が速ければ、もっと身体が大きければ。僕は、羨ましくて妬ましくて仕方がなかったんです。キャプテンも伊月先輩も火神君も、キセキの、皆も」
黒子は手に持っているボールを、些か乱暴にリングに向かって投げる。鈍い音を立てて弾かれたボールは、日向の足元に転がってきた。
秀徳戦の時のような激しさはないけれど、いつになく饒舌な黒子から、日向も伊月も目が離せなかった。
日向は足元のボールを拾い上げると、黒子に向かって放り投げた。
「阿呆。シュートなら、お前だって決めてるだろうが」
「え?」
「そうそう。――火神だって日向だって、勿論俺だって自分一人でシュート決めてる訳じゃない。確かに最後にボールに触っててリングにぶち込んだのは俺達かもしれない。でも、その俺達の手までボールを運んでくれたのは、お前だろ?」
「あれは、お前のシュートでもあるんだよ」
「お前がいるから、俺達もシュートできんだっつの」
黒子の瞳は相変わらず感情を読み難いが、心なしか頬が赤いように見える。
「……そう言われたのは、初めてです」
蚊の鳴くような声でポツリと呟いた。そんな黒子を見て、日向と伊月は目を見合わせて笑った。
「よしっ! 早く帰るぞ、黒子!」
突然パン、と手を叩いた日向に、黒子が弾かれたかのように勢い良く顔をあげる。
「ほらほら。さっさと片付けちまおうぜ」
そう言った伊月が黒子の背を押す。突然の衝撃によろめいた黒子の頭を、日向がわしわしと撫でた。
やめてください、と黒子が文句を言うが、日向も伊月もどこか嬉しそうに笑ったまま止めようとはしない。
「お前のやりたいようにすれば良いんだよ。黒子。ここは帝光中じゃない。誠凜高校なんだ」
「何かあったら、俺たちに頼れ。分かったな?」
伊月の優しい声色に、鼻の奥がツンとする。不器用で些か強引な日向の言葉が胸に響いた。
「ありがとう、ございます」
小さな小さな呟きに、二人は微笑みを返した。
明日に辿りつく勇気をください
(貴方たちとなら、きっとどんな道でも歩いてゆけるから)
背中を押してくれる人たち。
(2010.11.23)
(2010.12.19)加筆&修正
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