「にしても、悔しかったなー」
リアカーをくっつけた自転車を漕ぎながら、高尾がこぼした。何がだ、と問うと、何だよ真ちゃん聞いてなかったのかよと文句を言われた。
「黒子君だよ、黒子君。俺の目なら勝てるって思ってたのに、結局出し抜かれちゃったしなー」
黒子、黒子と連呼する高尾の言葉を聞いた緑間の頭に浮かんだのは、去年の夏の全中の日を最後に帝光中バスケットボール部から姿を消した幻のシックスマン。その日を境に、部活どころか校内で見かける機会も格段に減った。最初こそ誰も気にかけなかったが、いつからか桃井が気付き、黄瀬が騒ぎ始めた。
得意のミスディレクションを駆使したのか、桃井の情報網をもってしても、彼の居場所や進学先を掴むのは困難だった。
「……あの時お前が居たなら、何か変わったのかも知れないな」
「はぁ? 真ちゃんってば、急にどうしたわけ?」
そうすれば、彼を見失わなかったかもしれない。今とは違う未来が待っていたのかもしれない。
そんな仮定に意味などないことは、良く分かっている。それでも考えてしまうのは――。
至った考えに、慌てて首を振る。
今は今。それで良いじゃないか、と自分に言い聞かせた。
「ほら、さっさと漕ぐのだよ。急がねば遅刻だ」
「はいはい。分っかりましたよー」
仮定など無意味で
(今ここにある現実にしか、意味など無いのだ)
それでも俺は、「もしも」を考えずにはいられないのだよ
(2010/11/24)初出
(2011/07/19)加筆、修正