いつも通りの昼休み。
 次の練習試合の相手校のデータをいっぱい詰め込んだ段ボールを、部室へと運んでいた。
(一回で運ぶのは、ちょっとつらかったかなー……)
「相田先輩」
「きゃあ!」
 背後から急に掛けられた声に、驚いて段ボールを落としてしまった。思わずバランスを崩し前につんのめると、左腕をぐいと引っ張り上げられた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう」
 自分とさして変わらぬ体格の後輩に助けられた事に驚いて、彼を見る。バスケ部の中では小柄で細く頼りないとも思えるが、こうしてみると、ちゃんと男の子なんだな、と実感した。
「そんなに意外そうに見ないでください。……僕だって男ですから、女の子一人ぐらい支えられます」
 そう言いながら、黒子は段ボールを持ち上げ、部室に向かって歩きはじめた。リコの胸が、トクリと跳ねた。
「相田先輩?」
 いつまでも動き出さないリコに、黒子が不思議そうに振り返る。リコは慌てて黒子を追い掛けた。
「ねぇ。黒子君は、私のこと監督って読んでたわよね? なのに何で今日は‘相田先輩’なの?」
 先程から気になっていた違和感の正体。いつもとは呼び名が違うのだ。
「だって、相田先輩も女の子なんですから」
 部活外でも監督と呼ばれるのは嫌かと思いまして。
 当たり前のように紡がれた言葉に、リコは目を見開いた。その頬が、微かに朱に染まる。
 小さい頃から男勝りで、今や男子バスケットボール部の監督。誰も女の子扱いなんてしてくれなかったし、私もそれで良いと思ってた。
 さも当然ような黒子の気遣いに、どのように反応して良いのか、分からなかった。
「……日向君たちや火神君にも、見習わせたいわねっ!」
 精一杯の強がりも、彼にはお見通しなのかもしれない。






精一杯の強がり
(素直に「嬉しいわ、ありがとう」と、言えない私)







合言葉は「黒子は男前」
(2010.11.24)初出
(2011.07.19)加筆、修正。