「ごめんなさい」
自分の前で悲しそうに顔を歪めている少年は、今にも消え入りそうな声で、しかしはっきりとした声で口にした。力尽きたように地面に座り込んでしまっている彼に、目線を合わせるように自分もその場に膝をつくと、彼は更に申し訳無さそうに顔を俯かせてしまう。
「また、貴方を巻き込んでしまった」
疲弊しきった声色で、そう言った。それでも尚、顔を上げようとしない夏目を、名取は唯じっと見詰めていた。
ただでさえ細い肩が、いつもに増して細く、小さく見える。涙さえ流してはいないものの、泣いているようにも見えるその姿は、とても痛々しく、苦しげだった。
「私が勝手に首を突っ込んだだけだ。君の所為じゃない」
「っ、でも、その怪我は!」
まるで、彼自身が怪我を負ったかのように、苦しげに顔を歪める彼を見て、名取も同じように顔を歪めた。今の自分が、彼にどのような言葉をかけたとしても、彼にはきっと届かないのだろう。砂にまみれ、身体のいたる所に多くの擦り傷を作っている自分の姿。こんな姿で気にするな、と言われても気にせざるをえないだろう。それでも、それ以外にかけられる言葉が思い浮かばないのだ。もっと働け、私の頭。今ここで働かずして、何処で働くと言うのだ。
「大丈夫。大した傷じゃない。それよりも、」
君が怪我をしなくて良かった。
取り敢えず、やっとの思いで本音を紡ぐと、夏目が息を詰めたように顔を上げた。自分と同じように砂や土で汚れた身体だが、見る限り怪我を負ってはいないようだ。
良かった。
心の底からそう思った。
身体を叱咤してゆっくりと立ち上がる。ふら付きそうになったものの、意地で踏ん張った。
夏目はまだ、何か言いたげにしていたが、手を伸ばすと、何も言わずに私の手を取ってくれた。
「夏目」
立ち上がった夏目は、悲しげな目でゆっくりとこちらを見上げてきた。
「もっと、大人を頼って良いんだよ?」
夏目が目を見開く。
泣くのではないだろうか、そう思った。






少しでもいいから、
(なにか話してくれないか?)







泣いてもいいんだよ?
(2010.03.18)
(title:BoundaryLine)