学校からの帰り道、西村や北本と別れてすぐに、とてもよく知った後ろ姿を見た。
名取さん、と思わず声をかけると名取は笑顔で振り返る。キラキラと煌めくその胡散臭い笑顔に、声をかけなければ良かったかと若干後悔をしたが、時既に遅し。
お茶しないかい、と言われて夏目は渋々ながらめ首肯した。
入るのはいつもの喫茶店。ここは私が払うから好きなものを頼みなさいと言われ、コーヒーだけ注文すると、遠慮するなとケーキセットに(勝手に)変えられた。
「文化祭あったんだって? 呼んでくれれば良かったのに」
「嫌ですよ。名取さんみたいな目立つ人、呼びたくないです」
「つれないなぁ」
そんな軽口を交わしながら、目の前のケーキを一口食べる。
甘すぎず、とても美味しかった。
向かいの名取が嬉しそうに夏目を眺めていた。眼鏡のレンズの向こう側の目が、柔らかく細められる。それを見た夏目が、ぽつりと呟いた。
「眼鏡……」
「ん? 眼鏡が、どうかしたかい?」
「あ、いえ。……俺が眼鏡をかけたら、どうなるのか気になって」
いつの間にか最後の一口になっていたケーキを口へ運ぶ。ゆっくりとフォークを置くと、決心したかのように口を開いた。
「あの……。眼鏡、かけてみても良いですか?」
「良いけど、平気かい?」
「あ、はい。大丈夫です」
多分、と付け加え、名取から手渡された眼鏡を手にとる。
ゆっくりと眼鏡をかけると、何もいない筈の喫茶店に細々とした妖が沢山出現した。
「うわっ」
天井から床板の隙間から、あらゆる所に弱い妖がいる。その数は数えきれない程。
思わずのけ反った夏目に、名取が僅かに目を見開いた。しかし、こうなることがある程度予測出来ていたのか、そこまで驚いた様子はない。
「どうだった?」
辺りを見渡し終えた夏目が眼鏡を外して名取に返すと、名取が問うた。名取は眼鏡をかけず、胸のポケットへとしまい込む。
「……凄かったです。色々と」
「ははっ! そうだろうね」
名取が可笑しそうに笑うのを見て、夏目は苦笑した。
ちょっとした好奇心
(吃驚したけど、少し楽しかった)
夏目にすら見えない妖っているのでしょうか。
(2010/11/11)初出
(2011/07/19)加筆・修正