さて、今日は何処でサボろうか。
そんな不真面目なことを真面目に考えながら、ふらふらと江戸の町を歩いていた。真選組の隊服を着、腰に刀を差して歩く姿は市内警備中の隊士にしか見えないだろうが、自分の頭の上には当然のようにあの不気味なアイマスクが乗っているので、周囲から見るとアンバランスこの上ないだろう。
不意に漂ってきた甘い匂いに誘われて視線をずらすと、その先に見覚えのある銀髪があった。甘味屋の椅子に腰掛け、ぼーっと団子を頬張っているその男は、いつもの如く死んだ魚のような目をして、だらしない着流しを身に纏っているのだった。いつも一緒に居るメガネやチャイナ娘は、今日は一緒ではないようだ。
大の大人が一人で甘味屋へ入り、もふもふと団子を食している風景は自分に負けず劣らずアンバランスであったが、今の彼は傍から見ると、まごうことなき「一般人」であった。
一体、誰が想像することが出来るだろう。この男が、そこらの奴とは比べ物にならない程の強さを持っているということを。武装警察真選組、鬼の副長である土方十四郎より、遥かに高い剣技を持ち、剣の腕は真選組随一と言われている自分にさえ「勝てない」と感じさせていることを。今、自分の周りを歩いている人々は、想像すらしないのではないだろうか。
でも、俺は知っている。
敵を前にすると、瞳の紅が更に深みを増して、視線だけでも人を射殺せるのではないかと思ってしまう程に、鋭い目付きになること。彼の周りの空気が僅か一瞬、足が竦んでしまう程に、ピンと張り詰めた空気に変わること。人の気配と血の臭いに、異常な程に敏感なこと。
旦那は強い。
技術的な面は勿論だけれど、彼の強さはそれだけではない。誰よりも強い、揺るがない信念を持っているのだ。三年やそこらでは身に付けることが出来ない強さ。
彼が、今までどのような道を、どんな人物とどのように歩んで来たかなんて、自分には分からない。きっと、それこそ自分なんかには総合も出来ないような道を歩んで来たんじゃないか、と思う。
そんなことを考えながらゆっくりと歩いていると、いつの間にか、彼の表情が何となく分かる位、彼に近付いていた事に気が付いた。そこで立ち止まり、彼をじっと見詰めている。少しの間そうしていると、流石に自分から視線を鬱陶しく思ったのか、彼がゆっくりと顔を上げた。
彼とばっちり目があってしまった。慌てて、誤魔化すかのように手を振りながら彼の方へと歩み寄っていく。先程より、足取りは軽やかだった。
「お久しぶりですねィ、万事屋の旦那」
隣、良いですかィ?
そう尋ねると彼は、昨日も会ったじゃねェか、と小さく呟いてからどーぞ、と気の抜けた返事をくれた。
只それだけの事が、嬉しくて仕方がなかった。
剣と、強さと、信念と。
(だから、旦那は旦那なんだ。)
みたらし団子、奢りましょーか?
え、まじ?いいの?
(2009.08.01)