「なぁ、クローム」
控えめにそう問うと、すぐ横に座っていたクロームが不思議そうに首を傾げた。先程運んできたばかりの温かいお茶を、両の手で大切そうに持って少しずつ飲んでいるクロームは心なしか嬉しそうな表情に見える。
「普段、ご飯食べてる?」
「……食べてる」
「ど、どんなやつを?」
そう答える直前、僅かに俯いたクロームの顔を綱吉は見逃さない。
「……おにぎりとか、サンドウィッチとか、パンとか……」
いくつか挙げながら、クロームは湯飲みを机に置く。
「……もしかして、コンビニで売ってるやつ、とかじゃないよね?」
その言葉に、クロームはコクリと頷いた。それを見て、綱吉はやっぱりか、と溜息を漏らす。部屋の隅では、ハルとランボがワイワイ騒いでいるが、そんなものは気にしない。
「駄目だよクローム!」
「え?」
クロームの両の手を確りと自分の手で掴んで、言い聞かせるように言った。今、クロームたちが住み家としている健康ランドは、とてもではないが衛生管理ができているとは思えなかった。あんな、半分廃墟のような家(あれを家、と言っていいのだろうか)で女の子が生活しているのかと思うと、恐ろしい。
綱吉は、幼い頃からの母の教育によって「女の子には優しくすべし」が身体に染み付いているのである。
「犬や千種はともかく、女の子がそんな生活してちゃ駄目だよ! 銭湯だって、毎日行くの大変だろ?」
「ボス?」
「よし決めた。クローム。今度からご飯はうちにおいで。千種たちとも一緒に居たいだろうから、毎日とは言わないけど、せめて晩だけでもいいからさ! うちにはチビたちがいて煩いだろうけど、母さんはきっろ喜ぶしさ。ほら、ご飯とお風呂はうちで済ませればいいよ!」
な? と言うと、クロームが目を見開いてこちらを見ていた。クロームは骸に身体を貸している立場だ。骸は綱吉の身体を乗っ取ろうとしているけれど、それでも、今綱吉の目の前にいるのは自分と同じ年ぐらいの少女なのだ。
迷惑だっただろうか、と少々うろたえていると、一体何処から聞いていたのか、ハルが大きな声を上げた。
「ずるいです! ツナさん! ハルもツナさんと一緒にご飯食べたいです!」
「お前はもう、たまに来てるだろ?」
「そりゃそうですけど、ツナさんから誘われた事なんてないですよ!」
「誘わなくても来るんだから変わらないだろ!」
「そうですけど……」
ごねるハルを押しのけると、またも不満そうな声を上げる。ハルとの言い合いを見て、ランボが楽しそうだと大騒ぎ。
「ど、どうかな。クローム」
反応が無いクロームを見て、だんだんと不安になってきた。答えを求める声も、幾分か小さくなっている。
「……いいの?」
邪魔じゃ、ない?
小さな声だったが、クロームは確かにそう言った。
「勿論! 遠慮なんてしなくていいんだからな? ほら、どうせなら今晩も食べて行きなよ。ほら、ハルも!」
「本当ですか! ハル、感激です!」
「何が感激だよ。最初からそのつもりだっただろ!」
「はひ! ばれてましたか……」
はやくはやく、と促すと、ハルはランボを抱きかかえて嬉しそうに一階へ降りてゆく。よく通るハルの声が少しずつ遠くなっていった。
「ほら、クロームも」
手を差し出すと、控えめに伸ばされる手。それを確りと握って立ち上がらせた。
「行くよ。早く行かないと無くなっちゃう!」
くい、と軽く引っ張ると、横に置いていた鞄を取って少し慌てたクロームがついてくる。
「ボス……、ありがとう」
呟くそうな小さな声だったけれど、その言葉は確りと届いていた。
あたたかいひと
(かぞくって、こういうものなのかしら)
ツナの家での話。巻末ハルハルインタビューより派生。
(2010.03.14)