暖かな日差しが部屋に差し込んできている。窓は開いていないため風は入ってこないが、カーテンは閉められていないので日差しは容赦無く入り込んでくる。別に、これといって不便は無いの。ただ、少し眩しく感じるぐらいのものだ。壁に掛けられている時計は、正午を少し過ぎたところを示していた。
部屋の中央では、黒い服を纏った男が机に突っ伏して眠っていた。部屋の中はとても静かで、物音一つしない。当然だろう。この部屋の住人は彼一人なのだ、その彼は中央で眠っているのだから、他に物音がする方が可笑しいのだ。そう、それは“異常”なのだ。
―――――コンッ
窓の方から、小さな音が聞こえてくる。すると、閉まっていた筈の窓が開き、其処から二つの影がこの部屋へと滑り込んできた。
「よし、眠っているな」
男がそういうと、部屋の中央の机へ向かって歩みを進めた。男の後に、女が続く。
男はそっと机へ近づくと、机に置いてある真っ黒な仮面へと手を伸ばした。男の手の中に収まった仮面は、まるで其処が本来の居場所だとでも言うかのように、窓からの日光を受けて妖しく輝いた。
にやりと意地悪く笑って
(最初で最後の、性質の悪い悪戯を)
「薬の持続時間は8時間だったな。」
ルルーシュはC.C.の方へ視線を向けることなく、話しかける。ルルーシュの質問に是、と答えたC.C.の顔もルルーシュの方を向いてはいない。顔を向けるどころか、部屋の隅へと向かって行ってしまっているではないか。
先程侵入してきた窓の縁に凭れ掛かると、C.C.はやっとルルーシュの顔を見て、口を開いた。
「お前、本当に良いのか?」
C.C.の声は真剣そのものだった。あまりに真剣な様子のC.C.を見て、ルルーシュが苦笑を漏らす。ルルーシュは、答えを返さずに笑うだけだった。そんなルルーシュを見て、C.C.は大きな溜息をついた。
ルルーシュは仮面を手に、部屋の隅のクローゼットを漁っている。目当ての物は案外すぐに見付かったのか、クローゼットから出した黒い服を持って机へ戻る。腕に抱えている洋服一式を机の上に乗せ、自分の服のボタンへと手と掛けた。
ルルーシュが着替え終えると、机に突っ伏している男へと目をやった。
すうすうと寝息を立てている男を見て、ルルーシュは意地の悪い笑みを唇に乗せた。次に目が覚めたとき、彼はどのような反応を示してくれるのだろうか。それを頭に思い浮かべると、思わず笑みが零れる。小さく声に出してふふ、と笑い、壁の時計を見やると既に10分が経過していた。
ルルーシュは男が羽織っている漆黒のマントを剥ぎ取り、其れを慣れた手付きで羽織る。仕上げに、と仮面を手に取ると窓の縁に凭れ掛かっているC.C.がクスリと笑った。
「その姿のお前を見るのは、久しぶりだな。」
「もうこれが最後だ、目に焼き付けておくんだな」
ルルーシュが戯けた口調で言うと、C.C.もクツクツと笑った。
仮面をつけ、扉へ向かって行くルルーシュ。ドアのロックを解除し部屋を出て行く直前、ルルーシュは振り返りC.C.に微笑みかけた。仮面でその表情は見えないけれど、ルルーシュを包んでいた空気が確かに柔らかくなったのを感じた。
「じゃあ、行ってくる」
ルルーシュの言葉に、C.C.は微笑を返しただけだった。
お前は優しいな、ルルーシュ。
(2008/11/22)